同じ説明をしているのに、動ける子と動けない子がいる——その差は、運動能力ではないかもしれない

【お知らせ】書籍『思考の「運動神経」を鍛えなさい』を出版しました

いつもこのブログでは、バスケットボールを「なんとなく」ではなく、構造で分解して考えることをテーマにしてきた。

 

今回は、その延長線上で書いたの話をさせてほしい。タイトルは『思考の「運動神経」を鍛えなさい』。子どもの学習をテーマにした本だが、バスケのコーチや、子どもに何かを教えている人にこそ読んでほしい内容になった。

 

なぜそう言えるのか。まずは、こんな場面から始めたい。


「わかった?」にうなずいた子が、動けない

チームで、同じ説明を、同じ言葉で、全員にしている。それなのに、すっと動ける子と、そうでない子がいる。

 

最初は、運動能力や器用さの差だと思う。だが、どうもそれだけではないらしい。

 

「わかった?」と聞けば、たいていの子はうなずく。ところが実際にやらせてみると、動きがまるで違う。うなずいた顔は同じなのに、出てくる結果が違う。

 

そんなときは、一度こう聞いてみてほしい。

「今の説明、自分の言葉で言ってみて」

言葉が出てこない子がいるはずだ。出てきても、こちらが伝えたかったこととずれている子がいる。

 

しかも、手が止まるのは、運動が苦手な子とはかぎらない。むしろ身体はよく動くし、やる気もある。動けるのに、こちらの頭の中にあるイメージを、自分の中に再現できていない。

 

この本は、その「再現できない」の正体を扱った本だ。


出発点は、武井壮の理論だった

このブログの読者なら、一度は考えたことがあるはずのテーマから始める。

 

陸上十種競技を始めてわずか2年半で日本チャンピオンになった、武井壮の理論だ。彼が小学生のときに突き当たった疑問は、こうだった。

 

グラスの水を飲むことはいつでも成功できるのに、なぜバスケでシュートを外すのか。

 

答えが出たのは、自分がプレーする姿をビデオで見たときだった。そこに映っていたのは、頭の中で考えていたフォームとは、まるで違う動きをする自分だった。思った通りに動いている「つもり」なだけで、実は動けていなかった。

 

ここから、運動の能力はピラミッドで整理できる、という話になる。

  • 一番上:バスケ、陸上といった個別の種目
  • 中間:道具を使う運動/使わない運動
  • 一番下(土台):自分の身体を思い通りに動かす力

私たちが「運動神経がいいね」と言うとき、実は指しているのは、この一番下の地味な土台だけだ。種目の技術でも、道具の扱いでもない。イメージ通りに身体を動かせるかどうか、それだけ。

 

だから、特定の競技の反復練習をいくら積んでも、伸びるのは「その動きの上達」であって、土台そのものではない。逆に土台が先にできていれば、どの競技でも、他の人より圧倒的に早く上達する。

 

コーチをしている人なら、この構造は肌感覚でわかると思う。

運動のピラミッド


思考にも同じピラミッドがある。ただし、土台は「二本」ある

ここからが本題だ。

 

身体にこのピラミッドがあるなら、思考にも同じ土台があるのではないか。 「頭がいい」とは、知識の量でも計算の速さでもなく、思考を思い通りに動かせる能力なのではないか。

 

勉強の能力を同じようにピラミッドにすると、一番上が算数や国語といった個別の科目、中間が理系/文系。ここまでは運動と同じ形になる。

思考のピラミッド

違うのは、一番下だけだ。 運動の土台は一本柱だった。ところが勉強の土台には、二本の柱が並ぶ。

  • 柱1(自分軸):自分の思考を、思い通りに可視化できる力
  • 柱2(他人軸):他人の思考を、思い通りに可視化できる力

なぜ思考だけ一本多いのか。理由はシンプルで、他人の身体には入れないが、他人の頭の中には入れるからだ。

 

運動は、他人の身体に入り込めない。せいぜい動きを見て真似ることしかできない。だから土台は一本で完結する。

 

だが思考は、想像力を使えば他人の頭の中に入っていける。文章を読むという行為は、まさにこれだ。書いた人が何を伝えたくて、どの順番で言葉を置いたのか——それを自分の中に再現する作業にほかならない。

 

そして冒頭の「動けない子」は、運動の土台ではなく、この柱2(他人軸)でつまずいていた可能性が高い。


コーチが毎日やっているのは、実は「図解」だ

この非対称は、教える側に立ったときに、いちばんはっきりと姿を現す。

 

教える側は、その子の身体の中に入って動かすことはできない。できるのは、自分の頭の中にあるものを可視化して渡すことだけだ。そして子どもの側も、受け取ったものを自分の中に再現しなければならない。

 

ホワイトボードに位置と矢印を描く。あれは、コーチが自分の頭の中を可視化する作業——つまり図解そのものだ。コーチは、毎日それをやっている。

 

だとすれば、打てる手は一つしかない。

 

その子にも、描かせてみる。

描いてもらうと、どこがずれているのかが一目でわかる。「ここで走り出すと思ってた」——そう言いながら描かれた矢印を見て、自分の説明の順番が悪かったと気づかされる。相手の理解力の問題だと思っていたものが、実は伝え方の問題だった。 そういうことも、決して珍しくない。

 

運動を教えているつもりで、実はそのたびに、柱2(他人軸)のトレーニングをしている。この土台の話は、教わる側だけでなく、教える側にとっても他人事ではない。


きっかけは、小2の娘の「国語0点」だった

理屈だけの本にはしたくなかったので、実際にやったことも全部書いた。

 

小学2年生だった娘の学力テスト。国語の「思考・判断・表現」が、0点

 

原因を科目ではなく土台に求めて、週1回30分、好きなマンガを要約する練習を続けた。年間にすればたった12時間。それで翌年、41.7点になった。

 

数字よりも決定的だったのは、本人の口から出たこの言葉だ。

「全科目の授業がわかるようになってきた」

国語を鍛えたつもりはなかった。鍛えていたのは、土台のほうだった。


『思考の「運動神経」を鍛えなさい』の中身

全4部+補章、112ページ。図版33点。

内容
第1部なぜ、反復練習だけでは伸びないのか
(運動と思考のピラミッド/二本柱/武井壮理論の学習への適用)
第2部要約と図解が「最強の土台練習」である理由(研究データで効果を確認)
第3部うちの子は、何から始めるか(タイプ別チェックリスト/道具の準備)
第4部実際に、どうやるか(要約の手順・トレーニング/図解の手順・トレーニング)
補章大人になっても、土台は同じ場所にある

用意するのは、A4の紙1枚と、子どもが好きなマンガ。それだけだ。

コーチに読んでほしい箇所を3つ挙げるなら

  1. 第3章「身体には入れないが、頭の中には入れる」 — 冒頭の「動ける子・動けない子」の正体。教える側の視点で書いた章。
  2. 第11章・第12章「図解の手順/トレーニング方法」 — 囲み・矢印・配置という3つの最小単位と、5つの図解フォーマット。ホワイトボードの描き方が変わるはず。
  3. 補章「大人になっても、土台は同じ場所にある」 — 「わかりました」がわかっていない問題、二種類のズレ、ズレが見つかったときの声かけ。指導の現場でそのまま使える。

購入はこちらから

  • 思考の「運動神経」を鍛えなさい: 全科目の土台はたった1つ

  • Kindle Unlimitedにも対応している。

チームの子どもたちに「伝わらない」と感じたことがある人ほど、読む価値のある一冊になったと思う。もし読んでいただけたら、Amazonのレビューで感想を聞かせてほしい。次の改訂に反映させていく。


著者:ノバスケ(あきたか)/製造業でハードウェア開発に携わるキャリア15年のエンジニア。原因を切り分け、構造化し、誰が見てもわかる形に可視化する——仕事でやってきた手法を、そのまま家庭の学習に持ち込んでいる。一男一女の父。

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